2025年11月に行われた荷田先生の講演をもとに内容を記録しておく。
今回は剪定などの傷口からブドウに感染する病気について紹介する。
いくつかのブドウ病原菌は木質組織に感染して病気を引き起こす可能性がある。
これらの病原菌による導管部への感染は、水分と栄養分の移動を妨げ、葉や新芽の変色などの典型的な症状を引き起こす。 感染した茎や幹を切ると、維管束組織が茶色に変色していことからも感染がわかる。
これらの病気による被害は、 長期間にわたって蓄積されることが多く、 感染から数年は目立った被害が出ないことも多いが、ブドウの寿命を5年から10年縮める危険性もあるので、予防措置を毎年講じることが重要。それにより長期的なブドウ園の生産性を高めることができると考えられる。一方、感染が深刻な若いブドウの木は、 病気が急速に進行し、数年以内に著しい衰退につながることもある。
【主な病気名と病原菌】
⚫︎枝枯れ病
・Neofusicoccum parvum/ribis
・Diplodia seriata
・Lasiodiplodia theobromae
・Botryosphaeria dothidea
・他の Botryosphaeriaceae に属している菌類
ボトリオスフェリア菌(カビ)による。
典型的な症状は「新梢の枯れこみ」、「異常に成育不良の新梢」など。
異変を感じ、コルドンを切ると壊死している。維管束に茶色の変色がある。
⚫︎エスカ病、もしくはペトリ病
・Phaeomoniella chlamydospora
・Phaeoacremonium aleophilum (teleomorph
Togninia minima)
・他の Phaeoacremonium に属している菌類
エスカは日本では未確認。しかし世界的に猛威を振るっている。
葉に虎の子模様の病状(3つの色の枯れ込みが入る)。実に黒い斑点がつく。
発症までに20年ほどかかることもあり、今発症していないからといって安心はできない。春に切ると、切り口から黒い粘液が出てくる。
比較的ゆっくり進行するので、主幹を切り戻すことで延命できる。
⚫︎胴枯れ病
・Eutypa lata
・Eutypella aequilinearis (in Japan)
胴枯れ病は、新梢の生育不良が主な症状。切ったら道管が枯れ込んでいる。
楔形の枯れ込みが入る。
●その他
①枝膨れ病、ツル割れ病。
前年の感染した木質組織で越冬する。木質化した枝に黒いプツプツがあり、それが胞子を飛ばす。石灰硫黄合剤で対処可能→胞子が出ないようにする。
※枝系の病害は厄介。出さないことを目指す。
新梢伸びはじめにマンゼブ系の農薬で対処
②根頭がん腫
胴吹き(シュート)処理の時にもハサミを使って、乾燥する長さを残して切る。がん腫はバクテリアで、遺伝子組み換え状態をつくる。がん腫の中で必要な栄養を作っている。がん腫そのものを取っても意味ない。エコアークの紹介もあり(荷田先生も10年ほど効果を研究している)。→傷にもある程度効くことが分かってきた
※夏季にできた傷に撒くことも可能っぽい
※雪前に撒く実験もやってみたい
根頭がん種の試験で、幹にドリルで開けてバクテリアを注入してもかからないことある。それがなぜ北海道や長野で多発するのか不思議だ。環境要因が大きいのだろう。湿度と温度の関係だと思われる。→剪定時期と感染確率はあまり相関関係ない。
③ピアス病(カリフォルニア病)
日本には無いはず。これも葉に3色の色の変化が出る。
道管の詰まりが要因。特徴は「葉が落ちる時に葉柄が残って落ちる」こと。
※ベト病などは葉柄ごと落ちるし、それが普通の症状。
ヨコバイによって感染。ウイルスと同じく一度感染すると伐採しかない
品種によって症状が違う。トラミットなら更新で対処可能だが、ヴィダル・ブランは枯れる。
④サワーロット…畑から酢酸っぽい香りが漂う。
虫で媒介(ショウジョウバエの防除)。糖度15度くらいで防除、1週間後に防除。
耐性付きやすいので2回までの防除で。
⑤晩腐病(ripe rot)
実に丸い日焼け様の病痕が出る。ふにゃふにゃのレーズンみたいになる。
タバコ、トロピカルな味がする。病原菌は多数の種のグループ
赤系品種は胞子がピンク、オレンジになるのでわかりやすい。
雨が感染に必要。感染しても夏までは無症状。
休眠期防除→まだ効果は不明瞭なので、継続して研究する。
開花期とヴェレゾン期、ヴェレゾンの後、2-3週間後くらいの防除が効果的。
キャピタン、マンゼブ系がベースで、スイッチ、ロブラールをローテさせる。
アミスター、トップジンは耐性菌でやすいから気を付けて。
⑥軸枯症
晩腐病に似ているが、軸が枯れる場合「バンチ・ステム・ネクロシス」と呼ばれる。
まだ研究中だが、病気ではない。
乾燥状態からヴェレゾン期に水をおおく貰うと発生しやすいと考えられている。
各種マグネシウムなどの欠乏も要因となっている可能性がある。
⑦黒腐病(ブラック・ロット)
病症出て、硬くなっていく。軸は枯れない。実は梅干しの種に似てくる。
黒トウに似ている葉の症状で判断できる。
→灰色の中に黒い点々が出る
日本にはいないはずの菌。銅剤、生物農薬効かないので、有機栽培の敵。
【対応策】
① 好ましい条件での剪定
濡れた表面を避けることが大切。ブドウの樹皮は厚いため、病原菌が健康な樹皮組織に感染する可能性は低い。 幹や枝に付く病原菌は、剪定傷などの幹の傷から露出した組織から感染を引き起こす。これらの病原菌は、組織に感染するためには湿った表面を必要とし、 雨は病原菌の胞子放出を促す。したがって、 剪定傷を乾燥した状態に保つことで、感染のリスクを減らすことができる。剪定を行う前に天気予報を確認する。
乾燥していて、その後の数日間は温暖な気候が予想されるタイミングで剪定する。
雨天時の剪定を防ぐことが大切。これらの病害は雨が感染の条件になることが最も多い。
※少なくとも次の日が雨の日には切らない。
・乾燥する場所を残して剪定する。
芽の直上を切るやり方は古い(90年代はそれがセオリーだった)→残した部分は翌年に落とす。2cm以上は残す。
残すのは1cm以下の太さの枝。鉛筆くらいが生き残りやすい。
太い枝を残すと凍害に遭いやすい。
・剪定面の角度
地面に対して平行に切るのを止める。雨水がたまるのを防ぐため。
少しでも角度を付けて水を流すようにする。
・二段階剪定
二段階剪定「ダブルブルーニング」を推奨する。労力と予算に余裕があれば、できるだけ遅くまで待つこと。剪定による傷が暖かい気温下では早く治るため。たとえば、 低温(10℃以下)では傷が治るのに最大2週間かかることがありますが、より穏やかな気温 (10℃から15℃) では約1週間で治る。
最初の段階では冬または早春に大まかな初期剪定をコルドンから約45cm上を切ることで行い、 晩春に最終的な剪定を行う。 この方法には、次のような利点がある。
A.最終的な剪定は晩春に行われるため、 傷が早く治り感染を防ぐ。
初期剪定の傷が感染した場合は、2回目の剪定で感染した組織を除去できる。
B.凍りつくような冬の条件下での細かい剪定の決定を避けることができる。
初期剪定で長い枝をワイヤーから取り除くため、最終的な剪定にかかる時間が短くなる。カリフォルニア州の実験では二段階剪定で胴枯れ病が80%減ったというデータも出ている。
C.芽吹のコントロール
枝の先から萌芽するので、1週間-10日ほど遅霜のリスクを下げられる
・その他の注意点
Phomopsis viticola に感染した新芽がコルドンまたはシュートになると、時間の経過とと
もに弱くなり、枯死または 「デッドアーム」病を引き起こします。 これらのブドウの木は活力が低下し、生産性が低下する可能性があります。
この病原菌は前年の枝に感染し、 翌春に胞子を生成します。 感染した枝の近くに新芽が出てくると、 特に新芽が感染した枝の下にある場合は、 雨が降ると胞子が古い傷口から滴り落ちるため、 病原菌がそれらの枝に感染しやすくなります。 したがって、 感染した木と新芽の方向と距離に注意することが重要です。 このため、この病気を管理するには、コルドンで仕立てた枝を剪定するシステムよりも、長梢剪定するシステムの方が適しています。
対策としては石灰硫黄合剤などの殺菌剤を休眠期に散布するという選択肢があります。 この方法は枝膨病、つる割れ病、 そして黒とう病を効果的に抑制します。 休眠期に幹についている病原菌を抑えるので、 十分な水の量を使った、満遍ない散布が推奨されます。 ノズルなどに負担がかかるので、ご注意ください。 また、休眠期に処理を行っても、ブドウの発芽から1週間ほどで、 殺菌剤を散布して保護することが重要です。
② 大きな切り口の保護
大きな剪定創傷は最も脆弱であるため、特に注意して保護する。
2年目3年目の大きな枝を落とす場合は薬剤利用を推奨する。
トップジンが最もオススメ。剪定直後の散布が最も効果ある。
ペーストは長い期間もつ。
トップジンM、ベンレート、ペフラン、フロンサイド、ランプロアブルなどが休眠機に使用できます。 枝枯れ、 胴枯れ病などにどれほど有効なのかの見極めが重要です。 圃場の状態 (歴史)に合わせた剤の使用をお勧めします。
トップジンM、ベンレートは(おそらく一番一般的な) 枝枯れ病に対して効果がありす。
その他の保護剤(薬品の入っていないもの)や一般的な傷用塗料については、ブドウやその他の作物の栽培者の間では、これらの塗料は効果がなく、 塗料の下に湿気が閉じ込められることで悪影響が出る可能性があるという意見で一致しています。 トップジンM などと混合で使うのがベストかもしれない。有機でやるなら、何もやらないほうが乾燥を促して良いのではないかと感じる。
参考
ホウ素を含む傷口用ペースト、 商品名 B-Lock が枝枯れ病に対して有効であることが発見されています。 エッセンシャルオイルを含む別の製品 VitiSeal と呼ばれる製品は、 胴枯れ病およびエスカ病から傷口を保護するのに役立つと言われています。
③ ブドウ園の衛生
A. 残渣処理
樹に幹の病気の兆候がないか定期的に検査し、問題が発生した枝は速やかに除去する。
多くの木材がん病原菌、特に枝枯れ病は、死んだ植物組織上で生き延びることができ、胞子も飛ばすため、ブドウ園には剪定枝などの残骸が残らないようにする。ブドウ園内または近くに大きな枯れ木を残しておくことには利点はない。長期間かけて堆肥にするか燃やすかする。剪定した1年目の枝を畝の中央に置き、ブッシュホッグまたはチョッパーなどで破砕して分解を早めても良い。できればチップは土にすき込む方が良い。
B. 剪定用具の衛生管理
毎回ブドウの木を切るたびに剪定ハサミを洗うのは現実的ではありませんが、一日の終わり、 数列切った後、またはひどく感染したブドウの木を剪定した後には、 道具を洗うことをお勧めします。 剪定ばさみを消毒するには、 70%の消毒用アルコールを道具に直接吹きかけます。 または、バケツに漂白剤 10% 溶液を作ります。 道具をどちらかの溶液に1~2分間浸し、流水でよくすすいでください。
ウイルスは剪定ハサミからは基本的に感染しない。枝枯れ病などカビも感染危険性はそれほど高く無い。→胞子がハサミについて感染することはある。
剪定器具よりはカイガラムシの方がウイルス病には脅威。カイガラムシの移動は人間にくっついていく方法がある。圃場の移動制限やカイガラムシのいる区画の剪定順を最後に回すなどする。
カイガラムシはウイルス病(リーフロール、ブドウウイルスB)の媒介虫であることが確認されている。日本はリーフロールの感染率高い。60%ほど。
冬の休眠期防除でカイガラムシの卵を羽化させない。樹皮を剥いて、マシン油乳剤を撒く。噴霧器使ってゆっくり撒くモベントフロアブルを萌芽後2-3週間で撒くのも効果的。
開花の後にも撒くと安心。葉に撒いても根まで行く(浸透移行性?*家島注)
【補足資料】
創傷の治癒:時間、温度、サイズの影響
ブドウの剪定創傷の治癒プロセスは複雑で、 さまざまな要因の影響を受けます。
一般的なタイムライン:
A.感受性:
創傷は、作成直後に感染に対して最も感受性が高くなります。
B.創傷反応:
傷後数時間から数日以内に、 樹は防御反応を開始し、創傷近くの木部管にゲルやチロ
-ゼを形成します。 このプロセスは、 病原体の拡散を防ぐのに役立ちます。
C. 区画化:
その後の数週間から数か月にかけて、樹は脱水円錐領域を形成することにより、創傷の区画化を継続します。脱水円錐は、病原体の侵入に対する物理的な障壁として機能する、枯れて乾燥した組織です。
完全な「閉鎖」: カルスが完全に形成されるという意味での創傷の完全な密閉は、 ブドウの木では発生しません。 区画化プロセスと脱水円錐の形成により、 創傷は樹の他の部分から隔離されます。
治癒時間の例(推定):
小さな創傷 (直径1cm)、 温暖な気候 (20°C )、
低湿度: 病気に対する感受性は数日で落ちる。
区画化は2~4週間以内にほぼ完了する可能性があります。
小さな創傷 (直径1cm)、 低温 (5°C )、
高湿度:感受性は6~8週間以上続く可能性があり、 区画化には数か月かかります。
大きな創傷 (直径4cm)、 温暖な気候 (20°C )、
低湿度: 感受性は 4~6週間続く可能性があり、区画化には数か月かかります。
大きな創傷 (直径4cm)、 低温 (5°C)、
高湿度:感受性は8週間以上続く可能性があり、 区画化には1年以上かかる場合があります。
他に影響を与えるもの
低湿度: 創傷表面の急速な乾燥を促進し、感染に対する感受性を低下させます。
高湿度: 胞子の発芽と真菌の成長を促進する湿った環境を提供することにより、感受性の期間を長引かせます。
強い樹勢: 勢いのある樹は、防御と区画化に費やすエネルギーリソースが多いため、弱い樹よりも早く治癒する傾向があります。
弱い樹勢: 弱い樹は適切に治癒するのに苦労し、 感染に対してより脆弱になる可能性があります。
ブドウの品種:ブドウの品種によっては、他の品種よりも早く治癒する場合がありますが、創傷治癒における品種の差に関する具体的なデータは限られています。
病原体の存在 : 病原体の存在は、樹の防御メカニズムを妨げることにより、 治癒プロセスを遅らせる可能性があります。
創傷保護剤:創傷保護剤 (例:トップジンMペースト)の使用は、感染のリスクを大幅に軽減し、 樹が防御メカニズムを開始するための時間を稼ぐことができます。
●剪定時期に関して
・葉のある状態で剪定すること。
炭水化物の幹への転流が不足するか?
1年目の樹でやると恐らく越冬率下がる。
10年目の樹だと大丈夫とかありそう。
樹液が流れ出る状態は道管埋まりやすい。菌を押し出す、という俗説は不明。
そんな圧力無さそうな気がする。
春剪定の病理的デメリットは思いつかない。
カリフォルニアでは温暖化で樹液流れる時期に剪定すること多いが、枝枯病などは増えていない。ピンクやオレンジの樹液も問題ない。栄養分にイーストが出てるだけ。
寒い冬季の剪定に関して。
治りもしないが感染もしない状態であろう。
サラサラ雪は降っててもあまり問題ないが、ボタ雪なんかは良くないか。
気温が低いのが癒合の時間が長くなり、それも良くないか。
●最後に
荷田先生の開発したアプリで診断できる。
現在更新しているので、終わったらJVAでお知らせするので使用してみてください。
怪しい病状などはメールなどで対応できることもある。JVA通してくれてもOK。

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