ワイン用ブドウの「クローン」について

北海道でのワイン用の苗木で選ばれる品種というと、
ここ最近は特に黒ブドウ品種の「ピノ・ノワール」と、
白ブドウ品種の「シャルドネ」の2品種が最有力となっています。

では、画一化されているか、というとそうでもなくて、
各品種のクローンまで細分化し、選ぶ苗木を変える、
ということが最近は特に顕著になってきています。

ワイン用ブドウ品種における、「クローン」とは何か。
引用の形で3つの文献の記述を見たい。【 】内が引用。

①「ブドウがブドウ酒にかわるとき」後藤昭二、1997年(25ページ)より。
【クローンというのは、一個の植物体から無性の栄養増殖によって生まれた個体を指す。
 挿し木とか球根から成長したものがこれにあたる。
 一本のブドウ樹の枝の中に、糖分が高く質の良い果実を付けるとか
 病害に強い枝木がみつかることがある。
 このような枝を採り、挿し木で殖やしていく。
 これがクローンの選抜といわれるもので、
 優れたブドウ樹の選抜と継続的な栽培の基本になっている
。】

②「イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門」デイヴィッド・バード、2019年より。
【同じ品種であっても、それぞれのブドウ樹は、品質がよい、病気に強い、
 収量が多い、 果実の色がきれい、実が小さいなどといった異なる個性を持っている。
 したがってワイ ン造りにおいては、ブドウ品種の選択のみならず、
 ブドウ樹自体を選ぶことも非常に重要になる
が、
 今では多くの国際品種でさまざまなクローンを選択できるようにもなっている。

 ブドウ栽培におけるクローンとは、あるブドウ樹の完全なコピーという意味だ。
 それは、ブドウ樹が接ぎ木できる性質を持っているために可能なことであり、
 この方法により、ある樹が持つ個性をそのまま繁殖させられる。
 つまり、気候や土壌、醸造スタイ ルに適したブドウ樹のクローンを選択し、
 接ぎ木することで、求めている性質を持った 「完全なコピー」を
 畑に導入・栽培できるのだ

 おそらく近い将来、遺伝子工学を利用したブドウ樹のクローンも誕生するに違いない。
 ブドウ樹は繊細で感受性の高い植物であるため、
 カビやうどん粉病、ウイルスなどに感染しやすい。
 ブドウ樹自体、これらの病害に対する耐性を備えているが、
 さらに耐性を強化しようと、遺伝子組み換え技術を用いた研究が着々と進められている。】

③「ワイン醸造技術」日本醸造協会、2022年より。
 参考:https://note.com/orcawine/n/n9d0251e23d5a

【(5) ブドウ品種とクローン
 ブドウの各品種は、偶然に生じた、または育種された1本の母樹から
 挿し木 や取り木、接ぎ木によって殖やされ、広まったもので、
 本来同じ遺伝的性質を持つと考えらえる。

 しかし、 長い栽培の中で突然変異が積み重なり、
 少しずつ 異なる性質を示すグループを生じており、
 これらの各グループ (グループ内では遺伝的にほぼ均一と考えられる) をクローンと呼ぶ。

  同じ品種であってもク ローンによって、収量、 品質、果房の形態等が異なっており、
 海外の研究機関等でクローン選抜が行われている。

 主要なワイン生産国ではブドウの苗木は品種とともにクローン番号が明示されており
 日本でも今後の取組が必要と考えられる。】

これらの文献の内容からも分かる通り、
「品種としての特性は同一だが、明らかに異なる特性を保有している」株を選抜し、
それだけを任意に繁殖させたものをクローンと呼ぶ。
そして研究所や大学などが認定し、固定させたものに名前が付けられ、
流通する状態になってきている、ということになる。

たとえばブルゴーニュの有名地区の、優良生産者の畑のブドウと、
まったく同じ株を日本で育てることも可能ということだ。

しかし一方で、選抜が進みすぎていると感じる生産者もいる。

以下、「アンリジャイエのワイン造り」より引用。
【ピノ・ノワールはブドウの分類学者のあいだでも、
 最も複雑な種のひとつだと考えられている。
 この複雑な品種を今、薦められるがままに
 二つか三つの表現型(115、114、667)だけにしてしまうというのは、
 あまりに常軌を逸した振る舞いではないだろうか。】

この辺りは各生産者さんの考え、哲学での判断となりそうだ。
苗木屋としては多様性も確保しつつ、クローンも追究する方向になるか。

ピノ・ノワールのクローンの詳細については、
ワイナート発行の「ワインブドウ品種基本ブック」より引用。
【現在フランスでは、ピノ・ノワールのクローンが35種類以上も存在する。
 そして国によって認可された後、それぞれ番号が与えられていく。

 そして現場では、外観の大きさによって、大きく
「グロ/Gros(大)」「モワイヤン/Moyen(中)」「ファン/Fin(小)」
と3つに分けられる。

「グロ/Gros(大)」と呼ばれる大粒のピノ・ノワールのクローン群には、
No. 666、668、665、292、388、389、665、870、871などがある。
これらはシャンパーニュなど、
スパークリング・ワインの生産に適した多収量のクローン。

「モワイヤン/Moyen(中)」は中粒。
このクローン群には、
No. 375、459、521、523、743、618、779、927などがある。
これらはグロ系の品種よりは収量が低く、果粒も小さい。
フランスではACブルゴーニュ・クラスのワイン造りに適した品種とされる。

「ファン/Fin(小)」に属する小粒のピノ・ノワールは、
俗に「ピノ・ファン」と呼ばれるクローン系列。
3つのクローン群のなかで最も収量が小さく、果粒も小さい。
クローンNo. 111、112、113、114、115、
165、495、667、777、828、943などがこれにあたる。】

ニュージーランドのコヤマヴィンヤードの話では、
最新の943はかなり有力とのこと。

上記はフランスの、いわゆる「ディジョン系」だが、
他にもいろいろある。


たとえばカリフォルニア系は、
ポマールのUCD4、USD5、USD6や、スワン、
カレラ、マウントエーデンなど。

ニュージーランドやオーストラリアで普及している、
Abel(エーブル)、MV4、MV5、MV6。

エーブルクローンは熟期が遅いことで有名。
MV6はブルゴーニュのクロ・ド・ヴージョより
オーストラリアに持ち込まれ、
優良クローンとして評価されている。
欠点は収量が低くなること。
花振いしやすい。

スイス系と呼ばれる、
マリアフェルダAM10-5、2-45、9-18など。

ドイツ系もある。
1-1Gm、1-3Gm、2-9Gmなどがそれ。

最後に穂木品種のクローン一覧を付けておく。
まだ調べ切れていない部分も多い。
随時、付け加えていく。

穂木品種クローン一覧

ピノ・ノワール

111…コート・ドール県原産。色調しっかり。かなりタニック。灰色カビ病に弱い。
112
113…コート・ドール県原産。糖度高め、タンニンは控えめ。
114…コート・ドール県原産。香り高く、かなりタニック。
    品質は高いが、安定に欠ける。
115…コート・ドール県原産。生産性も品質も安定。豊潤。
162…原産不明。軽めの赤、ないしはロゼ向き。
    アルザスで普及。
163…原産不明。糖度は低め。
164…原産不明。糖度は低め。
165…原産不明。糖度は高く、試飲の結果は良好。
236…コート・ドール県原産。多産性。
    凝縮感に欠け、ニュートラルなワインに。
292…ジュラ原産。タンニンのしっかりした赤ワイン向き。
372
373
374
375…ソーヌ・エ・ロワール県原産。バランス良く清らか。
    生産性良い。
386…マルヌ県原産。他産性で果肉がしっかり。
    シャンパーニュ向き。
388…マルヌ県原産。精彩を欠く。シャンパーニュ向き。
    灰色カビ病に弱い。
389…マルヌ県原産。精彩を欠く。シャンパーニュ向き。
    灰色カビ病に弱い。
459…マルヌ県原産。多産性のなかでは品質がよい。
460
461
462
521…マルヌ県原産。典型的な発泡性ワインに。
    シャンパーニュで普及。
528
583…コート・ドール県原産。ピノ・ドロワ型。
    収斂性を伴い、青草っぽさが出る。
617
665…マルヌ県原産。標準的な発泡性ワイン向け。
    シャンパーニュで普及。
666…マルヌ県原産。標準的な発泡性ワイン向け。
    シャンパーニュで普及。
667…コート・ドール県原産。生産性は中庸。
    香りにフィネスがあり、タニックで長期熟成可能。
    北海道内での評価は比較的高い。
    天候の影響を受けやすいクローンのひとつ。
668…マルヌ県原産。標準的な品質。
    灰色カビ病に弱い。
743…マルヌ県原産。典型的な発泡性ワインに。
    シャンパーニュで普及。
777…コート・ドール県原産。
    きわめて品質高く、長期熟成型。
778
779…シェール県原産。典型的な発泡性ワイン向き。
780…マルヌ県原産。発泡性ワインとして標準的。
792…マルヌ県原産。典型的な発泡性ワイン向き。
828…コート・ドール県原産。ポリフェノールが多く含有。
    長期熟成が可能。
829…ソーヌ・エ・ロワール県原産。多産性。
    糖度は低く、際だった特徴はない。
870…マルヌ県原産。典型的な発泡性ワイン向け。
871…マルヌ県原産。標準的な品質の発泡性ワイン向け。
872…マルヌ県原産。典型的な発泡性ワイン向け。
927…シェール県原産。典型的な発泡性ワイン向け。
943…コート・ドール県原産。糖度が高く、長期熟成向き。

カベルネ・ソーヴィニョン

15…ジロンド県原産。収量抑えれば、バランスよく、骨格しっかり。
169…ジロンド県原産。バランスよく、タンニンは比較的丸い。
170…ロワール渓谷原産。品種特性が表れやすい。
191…ジロンド県原産。長期熟成可能。骨格がしっかりする。
216…ロワール渓谷原産。比較的多産、糖度中庸。
217…ロワール渓谷原産。比較的多産、糖度は中庸~低め。
218…ジロンド県原産。比較的多産、糖度中庸。
219…ロワール渓谷原産。比較的多産、糖度は中庸~低め。
267
268
269
337…ジロンド県原産。骨格しっかり、バランス良い、長期熟成。
338…ジロンド県原産。品種特性出る。台木5BBと相性良い。
339…ジロンド県原産。樹勢強く、収量多いと軽いワインに。
341…ジロンド県原産。品種特性よく出る。ムラのないクローン。
410
411
412
685…ピレネ・アトランティック県。糖度高め。




●メルロ
181…ジロンド県原産。収量低め。糖度高い。品種特性出る。
182…ジロンド県原産。生産性中庸。糖度高い。バランス良い。
184…ジロンド県原産。多産性、糖度は中。品種特性出る。
314…ジロンド県原産。樹勢は弱い。バランス良い。
342…ジロンド県原産。糖度中。品種特性出る。
343…ジロンド県原産。糖度高い。長期熟成型。
346…ジロンド県原産。樹勢強め。品種特性が出る。
347…ジロンド県原産。品種特性出る。バランス良い。
348…ジロンド県原産。糖度は中程度。ポリフェノール含有率高い。
349…ジロンド県原産。品種特性が出る。
447
519…ジロンド県原産。やや多産性で糖度は中程度。

●シャルドネ
  75…コート・ドール県原産。糖度は低く、バランスは良い。
    過剰に実をならせると、ぼやけてしまう。
  76…ソーヌ・エ・ロワール県原産。品質高く安定。
    香り高く、繊細で、品種特性がでる。
  77
  78…コート・ドール県原産。多産性。
    過剰に作ると表現力の乏しい痩せたワインに。
  95…コート・ドール県原産。場所を選ばず高品質。
    香りに品があり、豊潤でバランス良い。
  96…コート・ドール県原産。香り高く、力強く、バランスも良い。
    生産性も安定。
116
117
118…コート・ドール県原産。非常に多産性で糖度は中程度。
119…コート・ドール県原産。多産性のクローン。
121…コート・ドール県原産。
    香り高く、フィネスがあり、バランスもよい。
122…コート・ドール県原産。
    多産性だが中程度の糖度があり、品種特性出やすい。
123
124…コート・ドール県原産。生産性は中程度。
    品種特性は表れる。
125…コート・ドール県原産。多産性。
    際だった特徴のないワインを生む。
126
127
128…コート・ドール県原産。多産性だが糖度は中~高。
129
130…コート・ドール県原産。多産性。
    糖度は中程度まで上がり、品種特性は出る。
131…コート・ドール県原産。香り高く、繊細。
132…コート・ドール県原産。多産性で糖度も低い。
277…コート・ドール県原産。
    品質を上げるためには樹勢を弱め、
    収量を制限する必要有り。
352
414
415
548…ソーヌ・エ・ロワール県原産。複雑な香り。
    凝縮し、バランスよく、骨格もある。
549
809…ソーヌ・エ・ロワール県原産。
    繊細なマスカット香。扱いに注意。


●ソーヴィニヨン・ブラン
107…シェール県原産。多産性。品質特性が出やすい。
108…ジロンド県原産。樹勢は強い。香り高いが、フィネスに欠ける。
159…シェール県原産。バランスのとれた味わい。
160…シェール県原産。香り高く、品種特性出やすい。
    成熟はやや遅い。
161…ジロンド県原産。
240…ロワール・エ・シェール県原産。中庸なクローン。
241…ロワール・エ・シェール県原産。軽く、香りは儚い。
242…ロワール・エ・シェール県原産。香り高く、バランス良い。
297…ロワール・エ・シェール県原産。品種特性出やすい。
316…ジロンド県原産。香り高い。ドライに仕上がる。
317…ジロンド県原産。辛口、極甘口とも可能。
376…ロワール・エ・シェール県原産。品種特性はっきり。
377
378…ロワール・エ・シェール県原産。多産性。品種特性出づらい。
379
530…シェール県原産。早生で収量低い。
    香り高い辛口の仕上げから、ボリュームのある仕上げまで可能。
531
619
905…ジロンド県原産。
906…ジロンド県原産。

●リースリング
49…原産不明。収量を厳しく制限すれば、高品質で、
   品種特性のはっきりしたワインに仕上がる。

●ゲヴェルツ・トラミネール
  47…オー・ラン県原産。収量低く、糖度は中~高。
  48…オー・ラン県原産。収量中程度、糖度も中。
643…オー・ラン県原産。収量中程度、糖度は中~高。
→全体に品種特性は出やすい。

●ミュスカデ
177…干ばつに弱い。繊細でバランス良い。
227…繊細でバランスがよい。
228…繊細でバランスがよい。
229…繊細でバランスがよい。
230…繊細でバランスがよい。
231…繊細でバランスがよい。
232…繊細でバランスがよい。
441…繊細でバランスがよい。
442…生産性は中程度。糖度も中。
443…生産性は中程度。糖度も中。
→全てロワール・アトランティック県が原産。

●シュナン・ブラン
220…灰色カビ病にやや弱い。香り高く強い酸を持つ。
278…典型的で、バランスが良い。
416…果粒は重く、日常消費向け。
417…果粒は重く、日常消費向け。
624…灰色カビ病に弱い。酸は少ないが典型的な味わい。
880…灰色カビ病に弱い。張りとねっとり感がある。
982…現在観察中。比較的早生。ねっとりした力強い辛口。
1018…非常に早生。極甘口に向く。
→全てメーヌ・エ・ロワール県が原産。

●ピノ・ムニエ
458…マルヌ県原産。しばしば突然変異を起こす。
    典型的なシャンパーニュのベースワイン向き。
791…マルヌ県原産。早生。ベースワイン向き。
817…マルヌ県原産。早生。樹勢強い。ベースワイン向き。
818…マルヌ県原産。灰色カビ病に弱い。ベースワイン向き。
819…マルヌ県原産。ベースワインに適する。樹勢弱い。
864…マルヌ県原産。ベースワインに適する。樹勢強い。
865…マルヌ県原産。ベースワインに適する。
900…エーヌ県原産。ベースワインに適する。
901…ロワレ県原産。グリ・ムニエ型。ロゼに使用。
916…ロワレ県原産。グリ・ムニエ型。ロゼに使用。
924…マルヌ県原産。樹勢は中。ベースワイン向き。
925…オード県原産。ベースワイン向き。
977…マルヌ県原産。樹勢強く晩成。ベースワイン向き。
978…マルヌ県原産。糖度高く、ベースワイン向け。
983…マルヌ県原産。糖度中、ベースワイン向き。

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